パクチーの王様

 手をつないだ瞬間は緊張してる風だったのに。

 逸人はつないだ手は離さないまま、近くに行く。

 空いている方の手を芽以の顔の横につき、上からその顔を見下ろした。

 子どもの頃から変わらない、あどけない顔がそこにある。

 昼間、慣れない仕事を必死にやっている芽以を思い出し、爆睡しているが、疲れてるんだろうな、と思った。

 受付の接客と店の接客はまた違うだろうから。

「おやすみ……芽以」
とそっと彼女が起きないように、その額に口づけた。

 身じろぎすることもなく、芽以は眠っている。

 なんだか笑ってしまった。

 笑ってしまったが……。

 街の灯りでそんなに暗くはない部屋の中、芽以を見ていると、なんだか落ち着かない気持ちになり。

 自分が一緒に寝ようといったくせに、結局、布団を芽以の部屋に抱えて行き、ひとりで寝た。






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