パクチーの王様

 妻の友人たちがわざわざ来てくれたのに、いらっしゃいませだけと言うのもどうかと思うのだが。

 芽以は、いらっしゃいませと言っただけで、びっくりした、褒めてあげたいっ、と思っていた。

 実際、めぐみたちは、逸人が挨拶しただけで、ぽーっとなって、あまりこちらの話も聞いていないようなので、お客様に対する挨拶としては、それだけで充分なような気もしていた。

 しかし、面白いものだな、と芽以は思う。

 例えば、圭太が此処に居て、挨拶したとしても、彼女たちは、きゃーっ、と騒ぐだけだろうに。

 ほぼ同じ顔なのに、逸人だと、何故か、崇め奉る感じになっている。

 なんとなく、わかるようなわからないような、と思ったとき、芽以は気づいた。

 食べる手を止め、こちらを見ている年配のご夫婦が居ることに。

 開店当初から通いつめてくださっているご夫婦だ。

 しかも、ご近所さんでもないらしいのに。

 おい、あのシェフがいらっしゃいませとか言ってるぞ、という顔をしている。

 ……すみません。

 接客スキルのないシェフで……。
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