パクチーの王様
千佳たちに料理を運んだあと、芽以は、さっきのご夫婦の会計をしていた。
レジで、奥さんの方が笑って言ってくる。
「やだもう。
初めて、シェフが挨拶するの聞いちゃったわー」
と案の定言われた。
ほんとにもう、どんなシェフだって感じですよね、すみません……と思っていると、
「だって、シェフ、貴女になにか指示するとき以外、口開かないじゃない。
機械のように手際良くお料理してるし、実はホログラムで生きてないんじゃないかとか思っちゃってたわ」
と奥さんは笑い出した。
いや、この人も変わった人だな、と思いながら、芽以は、すみません、と苦笑いして、頭を下げる。
逸人も聞こえていたのか、ご夫婦が、じゃあ、と言いながら出て行くのを見て、ぺこりと頭を下げていた。
……すみません。
これがこの人の精一杯で……。
って、会社の仕事のときはしゃべってたんじゃないのか、おーいっ、と思いながら、芽以は深々と頭を下げ、ご夫婦を見送った。