パクチーの王様
騒がしい芽以の友人たちも、いつものご夫婦も帰るらしい。
……なにか自分も言うべきだろうか、と逸人が思っている間に、みんな帰っていってしまった。
他の客も居なかったので、芽以は二組とも見送りに出たようだった。
厨房を片付けていると、戻ってきた芽以が言う。
「ありがとうございました。
逸人さん、みんな喜んで帰りましたよ」
と言われ、逸人は、いや、とだけ言った。
いい友人たちだな、と思ってはいた。
特にあの、パクチー嫌いなのに来てくれたらしい千佳とかいう子など、みんなの食べているパクチーの匂いに顔をしかめながらも食べてくれた。
「いつものご夫婦も逸人さんがご挨拶されたのでびっくりされてましたよ。
すごいですねって」
いや、すごいですねってのもおかしいだろう……と多少反省していると、芽以が、
「私も、頭を撫でてあげたいとか思っちゃいました」
と友人たちと軽口を叩いていた流れでか、つるっとそんなことを言ってくる。