パクチーの王様



「いらっしゃいませ」
と振り向いた芽以は固まる。

 入り口に圭太がひとりで立っていたからだ。

 少しバツが悪そうにしている。

 いろいろ言いたいこともないでもないが。

 特に自分が引き取れないから、弟のところに行けとかいう無茶苦茶な要求に関してとか。

 だが、今までずっと一緒にやってきたのだ。

 此処で仲違いしてしまいたくないという思いもあった。

「……いらっしゃいませ」
と少し笑顔を作って言うと、圭太は、何故か、泣き出しそうな顔をした。

 子どもの頃、腕力のある近所の子にやられたときと同じ顔だ。

 思わず、誰にやられたの? と訊きたくなる。

 逸人は、圭太の来訪を知っていたのか、驚きもせず、機嫌悪く厨房から腕を組んで、こちらを見ていた。

 ……今、非常にどうでもいい話なのだが。

 白いコックコートの袖を捲《まく》って腕組みしているときの逸人の腕の筋肉のつき方がすごく格好いいといつも思ってしまう。
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