パクチーの王様

 いやいやいや。
 砂羽さんには、パクチー抜きのランチを作ってあげたではないですか、と思っていると、逸人は、鶏と野菜のローストにパクチーソースを添えて出してきた。

「好きなだけかけろと言え」
と言う。

 なるほど。
 ソースなら、自分で調節できるな、と思い、それを運んでいくと、圭太は、本当に数滴だけ、ソースをかけていた。

 なんとなく、そのまま側に立ち、見ていると、圭太は渋い顔をしたあとで、それを飲み込み、
「カメムシの匂いがする」
と言い出した。

 いや、ソース、ほとんどついてなかったようだが、と思いながら、

「私は香水だと思うけど」
と芽以が呟くと、圭太は顔を上げ、

「何処が香水だ」
 香水に謝れ、と言う。

「帰れ、圭太」
 いつの間にか、厨房から出てきた逸人が圭太に向かい、そう言った。
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