パクチーの王様
「芽以。
此処にあったパクチー、知らないか?」
翌朝、業務用の大きな冷蔵庫を開けながら、逸人が言ってきた。
死体でも簡単に詰められそうなやつだ。
「知らないです」
知るわけもないです。
パクチーの行方など。
「そうか。
昨日は予想外に量が出たんだな」
と冷蔵庫の前で呟く逸人の横顔を見ながら、
物好きも居るもんですよね、と思ってしまう。
しかし、逸人さんが残っているパクチーの量を間違うなんて、店に居るとき、なにか動揺することでもあったのだろうかな、と思う。
塩をまかれていた圭太が来たくらいしか思い浮かばないが。
……嫌いなのだろうかな、あの兄が。