パクチーの王様

 まあ、少々やかましい男だが。

 もしや、私のために撒いてくれたのだろうか、と芽以は思う。

 私が圭太の顔も見たくないかと思って撒いてくれたのかもしれない。

 そんなことを考えながら、逸人を見たが、彼はこちらを見もしなかった。

 あのー、私も今、まさに動揺してるんですよ。

 昨夜ゆうべキスされたことで。

 貴方も動揺とかしてみませんかね? 私のことで、と思いながらも、口に出す勇気はなく、

「ホール、チェックしてきます……」
と言って、芽以は厨房を出た。

 まあ、どうせ、逸人さんは、あれがファーストキスというわけでもないだろうし。

 慰めるために、ちょっとしてしまった、くらいのことだろうしなー。

 私ひとりが緊張とかしてみたりして、莫迦みたいだなあ、などと思いながら、寝る前に整えておいたテーブル等をチェックする。
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