パクチーの王様



  開店祝いだと祝儀袋を置いて、彼らは去っていった。

 他の客が居たので、見送れなかったのだが、いや、いいいい、と言って帰っていった。

 気のいい人たちだ。

「私、逸人さんのお友だちに初めて会いました」
と休憩時間に言うと、

「……いい奴ばかりだからな」
と自分で作った賄《まかない》を片付けながら、逸人は言う。

 何故、いい人なら、私が会ったことないのでしょう、と思いながら、芽以がまだ賄いの炒飯を食べていると、誰かが裏口の戸を叩いた。

 はーい、と立ち上がる。

 戸を開けたが、誰も居ない。

 おや? と思いながら、外に出ると、店の前に止まっている軽トラから、青果市場で見るような大きな青いカゴを抱えた男がやってきた。

 ヒゲを伸ばしたどっしりとした体格の男だ。
< 254 / 555 >

この作品をシェア

pagetop