パクチーの王様
「こんにちは。
 私、神田川《かんだがわ》と申します。
 逸人さん、いらっしゃいますか?」
と笑う。

 神田川は、日本人が勝手に抱いているイメージの中のメキシコ人風だった。

 彼らがみんな、あんな帽子を被って楽器をかき鳴らしたりしているわけでは、もちろん、ないのだが。

「この間お話ししたパクチー持ってきましたとお伝えください」

「神田川さん、パクチー農家さんなんですか?」
とカゴの中の大量のパクチーを見ながら、芽以が訊くと、

「いやいや。
 最近作り始めたんですよ。

 要望が多くて」
と神田川は笑う。

 意外にイケメン声で、あれっ? この人、若いのかな、と思った。

 ヒゲのせいか、よくわからない。

「逸人さーん」
と戸を開け、中に呼びかけたが、なにか用事をしていたのか、逸人はすぐには来なかった。

 レストランからの要望で始めたパクチー作りの話をしているうちに、神田川も、パクチー嫌いなことが判明した。
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