パクチーの王様
正月も開け、仕事に出た圭太は行きつけのレストランで夕食を取っていた。
ああ、これ、芽以が好きだったなとかぼちゃのニョッキを食べながら、芽以のことを思い出す。
歯の調子が悪いから、パスタはやめてニョッキにする、と言った芽以に、
『食べたいもの我慢するくらいなら、歯医者に行けよ』
と言って笑った自分が、今はとても遠い。
まるで、違う人間に起こっていた出来事のように感じる、と思っていると、いきなり、頭からスパークリングワインをかけられた。
……気のせいかな、と思ったのだが、周りの客がみな、こちらを見ているので、気のせいではないのだろう。
目の前にいたショートカットの女が立ち上がり、
「今日は帰ります」
と言い出す。
そうか。
お疲れ様、と思ったあとで、いや、これはのちのちまずいな、と気づく。