パクチーの王様
立ち上がり、
「濡れた服も乾いたろう。
タクシーを呼んでやるから帰れ」
と言う。
逸人が店の電話でタクシーを呼んでいる間、圭太は黙って、芽以を見ていた。
な、なんなのかな、その目線は……と芽以はうつむきがちになる。
あまりに真っ直ぐに見つめられたからだ。
それでいて、何処か、捨てられた仔犬のようでもある。
いや、捨てたの貴方なんですけど、と思っていると、圭太が言ってきた。
「好きだ、芽以。
ずっとお前のことが好きだった――」
自分で言っておいて、圭太は驚いたような顔をし、ふっと笑う。
「……なんだ、言えたな。
今、言えなくてもいいのに。
今、言っても、どうにもならないのにな」
そう呟くように言い、立ち上がる。
いつもの圭太に少し戻っているように見えた。