パクチーの王様




 どんな顔したもんかな、と朝から逸人も思っていた。

 今朝の芽以は自分とは目も合わせず、二倍速くらいの勢いで動いている。

 まあ、仕事が早く終わっていいのだが。

 一階に下りると、モップを手にしていた芽以が突然、石像のように動かなくなった。

 かと思うと、モップを倒す。

 カン、という音ともに、こちらを振り向いた芽以が、いきなり猛スピードで突っ込んできた。

 イノシシかと思う、その勢いに、思わず、逃げそうになったが、逸人は、ぐっとこらえ、なにも思っていない風を装った。

 だが、そんな風にしなくとも、芽以はそもそも、自分とは目を合わせようともしなかった。

 ペコペコ頭を下げながら、
「ぜひっ、逸人さんもなにかお困りの際には、わたくしにお甘えくださいっ」
 などと言ってくる。

 それは、俺にもお前のベッドに入ってこいという意味か? 芽以っ!

 それとも、ただ、なんとなく言ってみただけなのかっ?

 ああ、芽以の気持ちがわからないっ! と芽以が消えたあと、表情も変えずに苦悩していると、いきなり、背後で、
「甘々だね」
と声がした。

 振り向くと、茶髪でいまどきのイケメン風な男が立っていた。
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