パクチーの王様



 不思議な客が居る……と芽以は思っていた。

 静たちが帰ったあとは、普通に営業していたのだが――。

 夜、大学生風のちょっと可愛らしい顔をした男がひとりで入ってきて、奥まった席に座った。

 脇目も振らず、メニューを熟読している。

 これは余程のパクチー好きか、と思ったとき、彼はこちらを見て言った。

「すみません。
 もっともパクチーが少ないもののひとつはどれですか?」

 英語の例文か。

 私は常々、この例文が引っかかってしょうがなかったんだが、と芽以は思っていた。

 『もっとも~』と言ったら、普通、一個しかないと思うのだが。

 英語を訳すと、どうして、あんな風になってしまうのだろう。

 っていうか、この人、なにかを訳せと言われたわけでもないのに、何故、こういうしゃべり方を。

 勉強漬けの人だろうか、と思いながら、芽以はメニューを見て、即、答えた。

 前例があったからだ。
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