パクチーの王様

 このパクチーの王様は、パクチー嫌いを崖から突き落として鍛えようと言うのだろうか。

 いや、自分もパクチー嫌いのはずなのだが……。

 しかし、不思議なお客さんだな、と芽以は少し離れた位置から彼を眺めていた。

 一人で来ているのだから、みんなが行こうというので、仕方なく来た、というわけでもないだろうし。

 罰ゲームとか?

 そういえば、触りもしないのに、スマホをテーブルの上に出したままだな。

 食べるところを写真に撮ってこいと、みんなに言われたとか?
と思いながら、料理を出すと、やはり、彼はそう言ってきた。

「すみません。
 僕がパクチー食べるところを写真に撮ってくれませんか?

 お暇なときでいいですから」

 やはり罰ゲームだったか、と思いながら、芽以は微笑む。

「はい。
 わかりました。

 今、大丈夫ですよ」

 ちょうど、客はみな食べているところなので、芽以のすべきことは今はない。

 では、と青年は、チキンと野菜にパクチーソースをかけ始める。
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