パクチーの王様
「まあまあ、歩いてきたのなら、呑みなさい」
と言われ、光彦に、正月だからと、純金の銚子で純金の杯に酒をそそがれる。

 うむ。
 なんか美味しい気がする。

 いや、まあ、酒自体がいいのだろうが。

 ひんやりとした口当たりで美味しく感じる。

 料理は正月だからか、和食だった。

 気がつけば、逸人は料理を凝視しながら、食べている。

 この薔薇のように飾られた鯛にパクチー。

 このホッキ貝のサラダにパクチー。

 このセリをパクチーに変えたら。

 でも、ただ美味しい料理にパクチーのせればいいってもんじゃないからな。

 あの嗅いだだけで、吐きそうなパクチーの風味を活かさねば、という顔で逸人が見ているのがわかり、ちょっと笑ってしまう。

 なんにでも真剣な逸人が好きだ。

 ……いや、人間としてだけど、と思いながら、芽以は、お吸い物をいただいた。
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