パクチーの王様
いや、と溜息まじりに言った逸人は、
「俺も今、心底そう思ってるところだ」
と言う。
「この間、圭太を邪険にして悪かったかな」
と何故か反省の弁を述べ始めた。
彼の今後の人生が自分たちより遥かに過酷なものであることを今、実感したからだろう。
逸人は冴え冴えと澄み渡る冷たい夜空を見上げ、
「帰るか」
と言ってきた。
はい、と芽以は微笑む。
なんかいいな、と思っていた。
帰るか、と誰かに言われて、共に帰る暖かいおうち。
その共に帰る相手が、逸人であるということが、より心を温かくしているような気もする。
そんなことを考えながら、芽以は逸人と二人、凍てつく夜道を帰っていった。