パクチーの王様



 なにも置いてはいない真っ白なまな板を前に、逸人は思索に耽ふけっていた。

 やはり、誰かが丹精込めて作った料理を食べるのはいい。

 自分も頑張ろうと思い、それをまた、アレンジしてみたくなるからだ。

 頭の中で、一通りまとめ、ノートにざっくり書いてから、試作に取りかかろうとしたとき、ふと気づく。

 さっき、芽以がそこに佇んでいなかっただろうかと。

 かなり長い間、こちらを見ていた気がする。

 なにか話があったのだろうか? と気になった。

 芽以を探して厨房を出ると、芽以はリビングの片隅に作っている神棚を拝んでいた。

 朝起きたときと寝る前に神棚を拝むのは、芽以の習慣だ。

 その姿を黙って見ていると、さてと、という感じで、こちらを向いた芽以が、うわっ、と驚く。

「あっ、逸人さんっ。
 もう終わったんですかっ?」
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