パクチーの王様
 ああっ、自分からつかんでしまったっ。

 しかも、こんな暗がりでっ。

 襲ってすみませんっ、くらいの勢いで、芽以は手を離して、飛び退いた。

「芽以」
と振り返った逸人がなにか言おうとしたとき、芽以がパジャマのポケットに入れていたスマホが鳴り出す。

 慌てて取ると、

『ちょっと芽以さんっ。
 今から来てくれないっ?』
という切羽詰まったような女の声が聞こえてきた。

 富美だ。

『早く来てっ。
 日向子さんと話が続かないのよーっ』

 いや……。

「殺されます」

 思わず、口からその言葉がもれていた。

 圭太が居る今、行ったら、きっと日向子さんに殺されます。
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