パクチーの王様
 ……言ってみたいな、そのセリフ、とまったく勉強してこなかったことを後悔している芽以が思っていると、

「俺は圭太のようにお前を楽しませることはできなかった。
 あいつみたいに、豊富な話題も、多彩な遊びも知らないからな。

 お前は、昔から、俺と居るより、圭太と居る方が楽しそうだった――」

 おやすみ、と言って、逸人は行こうとする。

「待ってください、逸人さん」
と芽以はその腕をつかんでいた。

 廊下と窓からの明かりの中、逸人が足を止め、自分を見下ろす。

「私は逸人さんと遊ぶのも好きでしたよ。
 でも……、逸人さんと居ると緊張するんです」

 そう言うと、逸人は少し寂しそうな顔をした。

 この人に、そんな顔はして欲しくない。

 だから、洗いざらいぶちまけよう、と芽以は覚悟を決めていた。
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