パクチーの王様
「あー、美味しいですねー。
 炊きたての白いご飯って」

 米の保存状態も良く、炊飯器様も立派なので、芽以が炊いても、ご飯は、ふかふかのつやつやだ。

「栄養が偏かたよるとわかってからも、玄米ではなく、白米を食べ続けた江戸の人の気持ちがわかります」

「……そうか」

 突然、江戸に思いを馳はせる芽以に、逸人は少し困ったような相槌を打っていた。

「っていうか、明太子とかキュウリのツケモノとか、昆布とかあったら、おかず、いらないですよね」

 朝から幸せです、と笑うと、渋い顔をした逸人が、
「同感だが。
 店と料理人の存在意義をなくすようなことを言うな……」
と言ってくる。

 はっ、了解ですっ、と返事をしたとき、電話が鳴った。

「誰だ、こんな朝早く」
と逸人が取ろうとしたので、

「あ、いいです。
 私、出ます」
と言って、芽以は店の電話兼、家の電話である固定電話を取りに走った。

『ああ、芽以さん、起きてた?』

 今日は正気らしい、富美《ふみ》だった。
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