パクチーの王様
 その気配を察知したのか、富美は、こちらには、
『貴女は好きにしていいわよ。

 式、するんでしょ?
 楽しみにしてるわ』
と言ってくる。

 はっ、ありがたき幸せ、という感じの返事をして、電話を切ろうとした。

 だが、そのとき、誰かが店のドアを叩いているのが聞こえてきた。

 えっ? と受話器を持ったまま、店の方を覗くと、ガラス扉の向こうに、ロシアンセーブルのファーストールを羽織った日向子が立っていた。

 芽以が電話を切らなかったので、そのまま、富美の愚痴は続いている。

『ほんと、日向子さんはワガママ放題やってきた人だから、手に負えなくってね』

 いや、今、此処に居ますけどね……。

 扉を開けない芽以に、日向子が大きな声を出そうとしたので、芽以は少しドアから離れ、必死に電話を指差す。

 すぐに通じたようで、日向子は、頭の上に指で、子どもがやるように、鬼のツノを作ってみせた。
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