パクチーの王様

 そのとき、日向子が逸人を振り向き、
「逸人、なにかない?

 親と揉めて出てきたから、朝ご飯食べてないの。
 お腹空いた」
と言い出した。

 まったく、と言いながらも、日向子のために厨房に向かう逸人の背を見ながら、芽以は呟く。

「私、日向子さんを呪い殺したいです……」

 日向子が飲みかけた紅茶を吹いたようだった。

 振り返ると、日向子は、その琥珀色の液体を凝視している。

「今は、なにも入ってませんよ」
と言うと、

 今はっ? なにもっ?
と日向子は目線で訴えてきたが、それには構わず、芽以は彼女の前に座った。

「日向子さんは、どうして、逸人さんを呼び捨てにできるんですか?
 それも、あんな生意気な口まできいて」

「いや……あんた、喧嘩売ってんの?」

「いえいえ、そうではなくて、私も愚痴と相談です」
と小声になり、前屈みになると、日向子もつられて、身を乗り出してきた。
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