パクチーの王様
「私、一緒に暮らしてはいるんですが。
 日向子さんみたいに、逸人さんと打ち解けられません」
と言うと、

「いや、夫婦なんでしょ。
 呼び捨てにして、甘えなさいよ」
と日向子も小声で言ってくる。

「あの朴念仁の逸人でも、さすがに二人きりのときは、甘い感じの雰囲気出してくるんじゃないの?」

 想像つかないけど、と笑う日向子に、いえ、私も想像つきませんけどね、と思っていた。

「私、昔から、逸人さんを前にすると、緊張してたんですけど。
 結婚してから、より一層、それがひどくなっちゃって。

 得体の知れない行動とっちゃったりするんですよー」
と言うと、日向子は、わかるわかる、と頷いてみせる。

「私も、圭太の前ではそうだから。
 他の人の前では、もうちょっといい女を演じられるのになー」

 凍てつく窓の外を見ながら、そう呟く日向子に、
「いい女って演じるものなんですか?」
と訊くと、

「そりゃ、多少は格好つけないとね」
と言ってくる。
< 365 / 555 >

この作品をシェア

pagetop