パクチーの王様



 逸人が彬光を厨房に連れていったあと、再び、どっかと腰を下ろした日向子が、おのれの責任逃れのためか、

「なんで私だけが責められるのよ。
 逸人だって、いい年じゃない。

 私以外の誰かともキスくらいしてるわよ~」
 などと言い出した。

 そして、言っておいて、芽以の顔を見、

「落ち込まないでよっ、なんなのよっ。
 あるでしょ、この年になったら、誰だって、そのくらいのことっ。

 あんた、どんだけ逸人を盲信してんのよっ。
 あれだって、ただの男よ」
と言ってくる。

「そんなことはありません。
 逸人さんは、神様です。

 パクチーの神様です」
と芽以が呟くように言うと、

「……全然、ありがたくない感じの神様ねえ」
と同じくパクチー嫌いの日向子は言ってきた。

 そのまま、頬杖をついて、逸人達の方を見ている。
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