パクチーの王様



 神棚を拝んで、部屋に戻った芽以が、さて、寝ようかと布団に入ったとき、誰かがドアをノックした。

 いや、誰かって、逸人しか居ないが。

「はい」
ともう暗くしていた部屋の中で、返事をすると、逸人がドアを開け、

「さっきから元気がないが、どうかしたのか?」
と訊いてくる。

 いや、元気がないんじゃなくて、言い出せなかった自分の不甲斐なさに落ち込んでいるだけです、と思いながら、

「なんでもないです。あの……」
と言いかけた。

 廊下の明かりを背に立つ逸人に、今、言おっかなーと思ったのだが、やはり、上手く言葉には出来なかった。
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