パクチーの王様

 千佳が気に入っているイケメン、大原だ。

「どうしたの? 今日、此処、人多いね」

 別館側の受付もあるので、三人全員、此処に居ることは稀だからだ。

「いやー、彼女が今月末に寿退社なので、名残り惜しくて。
 引き継ぎという名目で、此処に溜まってたんですよ」
と芽以を手で示しながら、千佳が笑うと、

「そうなんだー。
 おめでとう、杉原さん」
と微笑みかけてくれる。

 よく知らないイケメン様だが、ありがとうございます、と頭を下げると、千佳が、

「杉原の旦那さんは、中通りでパクチー専門店をやってるんですよ。
 大原さん、パクチーお好きなら……」

 で、一度、言葉を止めた。

 一緒にどうですか、と今、言おうとしたな、と思う。

 チャンスは逃さない女、千佳をためらわせるパクチーか、と芽以が苦笑いしていると、
「中通りのパクチー専門店って、何軒もあったっけ?」
と大原は言ってくる。
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