パクチーの王様

 逸人と聖と父とで足湯に入っていたとき、それまで硬かった父の表情が柔らかくなり、急に笑い声が聞こえ始めた。

 あれは、そんな逸人の覚悟を聞いたからだったのだ。

「でもそういうのって、お父さん、逆に不安じゃなかったのかな?」
と今は会社に行っている父のことを思い、芽以は訊いてみる。

 娘がそのまま、ポイ、される可能性もあるからだ。

 すると、リビングと続きになっているキッチンに居た母が、

「逸人さんはいい加減な人じゃないからね。
 あんたが気に入らなくても責任くらいはとってくれるでしょうよ」
と言ってきた。

 おい、母。

 気に入らなくてもってなんだ……、と思っていると、翔平を片腕で抱っこした聖が言ってくる。

「逸人がお前を捨てるわけないだろ。
 念願叶って結婚したのに。

 だって、あいつ、昔から、お前のこと好きだったんだからな」

 ……はい?
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