パクチーの王様
夜の営業中、芽以は厨房に入るたび、こちらには目もくれずに黙々と調理している逸人の横顔を眺めた。
こんな良くできた人が私を好きとか。
……いや~、ないない。
そのとき、彬光がホールから呼んできた。
「芽以さん、ちょっとー。
取材の人らしいですよー」
取材? と小首を傾げながら行くと、若い男女がテーブルに居て、地元タウン誌の者だが、取材させて欲しいと言ってきた。
えっ、と芽以が詰まっていると、
「この界隈でパクチー専門店って初めてなので、ぜひ、特集させていただきたいと思うんですが」
と言ってきた。
でも、逸人さん、最初は広告打たずにじっくりやって足場を固めたいって言ってたから、お客さん増えすぎるのは困るんじゃ、と名刺を手にしたまま、芽以が固まっていると、カメラを持った男性が言ってきた。
「いや、お宅のシェフ格好いいですよねー。
ぜひ、シェフの写真をバーンッと載せてですね――」
「のっ、載せないでくださいっ」
と芽以は思わず叫んでいた。