パクチーの王様
「昨日、区役所に必要な書類を取りに行って、婚姻届が出てなかったのを知りました」

 婚姻届が出てなかったのをありがとうございますって、それは俺と結婚してなくて、

『ああー、良かったーっ』

 ってことか、芽以っ。

 逸人の頭の中では、いつか見た光景のつづきが再現されていた。

 寒い冬の夜。

 観覧車の方に向かい、手をつないで歩いていく芽以と圭太。

 やっぱり、圭太と結婚するから、ありがとうございますっ、とかかっ?
と多少頭がガンガンしながら思っている逸人の前で、芽以は俯きがちに少し赤くなり、言ってくる。

「私が覚悟を決めるまで、婚姻届は出さないとおっしゃってくださったそうですね。
 ありがとうございます。

 嬉しかったです」

 そのまま、芽以は恥ずかしそうに、ぱっと居なくなってしまったが、逸人はそのまま固まる。
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