パクチーの王様

 ちょうどいい口実が出来た、と思い、芽以の部屋のドアをノックしようとしたとき、中から声が聞こえてきた。

「ごめんなさい。
 待ってた?

 今日も一日お疲れ様」

 芽以?
 誰と話してるんだ……。

 頭の中では、話し相手は圭太になっていた。

 だが、そういえば、芽以のスマホは此処にある。

 まさか、部屋の中に圭太がっ?

 緊張しながら、逸人は戸に耳を当て、中の様子を窺ってみる。

「今日もお客様いっぱいだったよー」
という芽以の言葉を聞きながら、

 待てよ。
 これでは、盗み聞きだな、と気づく。

 しかし、一体、中でなにが、と思いながら、勇気を出して、ノックしてみた。

 他に誰も居ない部屋で、芽以が鏡に向かって、ひとりで話しかけてても怖いなと思いながら。
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