パクチーの王様

 入っていいものなのか迷いながらも部屋に入ると、芽以は、ははは……と苦笑いしていたが、特になにかを隠そうとする様子もなかった。

 近づいてみると、芽以の机の上には、小さな鉢植えがあった。

 芽はまだ出ていない。

「これは?」
と訊くと、

「パクチーです」
と芽以は言う。

「一から育ててみたら、可愛く感じられるかなーと思って」

 芽以なりに、パクチーに近づこうとしているようだった。

「育てて、食べてみるのか?」
と訊くと、

「そうですね」
と言ったあとで、あっ、いや、でもっ、と言う。

 芽以は、まだ芽の出ていないパクチーを見つめ、言ってきた。

「可愛がって育てたら、食べられなくなるかもしれませんよね」

「いや、食べないまま枯らすのも問題だろ」
と答えたあと、二人で、街と月の明かりの下、まだ芽が出ていない鉢を眺めた。
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