パクチーの王様
こうして一緒に眺めていると、なんだか、二人で子どもを育ててるみたいだな、と逸人は思う。
『芽以、子どもを作ってみようか』
とか言ったら、確実に、
『は?』
と言われるな、と思いながら、逸人は芽以の後ろからパクチーの鉢を覗き込み、言った。
「無理にパクチーを好きにならなくてもいいんだぞ、芽以。
俺は逆に今は怖いんだ……。
パクチーはいきなり好きになる瞬間が訪れるというが」
その瞬間が来ることが、今は怖い。
「俺は、こんな感じにパクチーが出てきたら嫌だなとか。
こんな料理に混ざってたら、香りが強そうで嫌だな、とか。
自分がこれは強烈に嫌だな、と思う料理を作ることで、お客様にお褒めいただいてきた。
でも、自分がパクチー好きになってしまったら、そういう発想が出なくなるんじゃないかと思って、ちょっと不安なんだ」
暗がりなせいもあり、なんとなく、芽以との距離を近く感じ、そんな不安を吐露してみた。
……芽以、返事がないが、と思いながら、逸人はしばらく黙っていた。