パクチーの王様




 芽以の返事がないことを逸人が不安に思っている間、芽以は自分の頭のすぐ上に逸人の顔があり、自分の背中のすぐ真後ろに逸人の身体があることに緊張して、フリーズしていた。

 近い近い近いっ。

 普段吐かない弱音を吐く逸人に、なにか言ってあげなければと思うのだが、上手い言葉が出てこない。

 そのまま黙っていると、
「……俺と結婚してなくて、ほっとしたか」
と逸人が訊いてくる。

 此処だけは、なにか言わなければっ、と思い、芽以は慌てて口を開いた。

「いえ。
 ショックでした」

 ああっ、なにを言ってるんだっ、私はっ、と言っておいて、焦る。

 これでは、告白しているようなものではないかっ、と思ったとき、後ろから逸人が抱きしめてきた。
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