パクチーの王様
「芽以……」
と呼びかけられ、失神しそうになったとき、軽い足音が屋根の上で、バタバタバタとした。

 それと同時に激しくなにかが羽ばたき、月明かりの中、高い木に飛び移る猫が見えた。

 どうやら、夜目がきく猫が、休んでいた鳥を襲おうとしたようだった。

 逸人は芽以から手を離し、窓辺に寄ると、飛び去る鳥を見ながら、
「……鳥さんか」
と呟いた。

 鳥さんっ?

 だが、逸人の顔は大真面目だ。

 おそらく、子どもの頃、鳥さん、と言っていたのが、口癖として、そのまま残ってしまったのだろう。

 その顔立ちに似合わぬ可愛い物言いに、心臓をやられそうになる。

 逸人さんっ。
 めちゃくちゃ好きかもですっ、と思いながら、立ち上がり、芽以は走って逃げた。





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