パクチーの王様
 まあ、発芽するまで、結構かかるらしいからな、と思いながら、土を見つめている間に、神田川の苗がぐんぐん育ってきた。

 元がしっかりした苗な上に、神田川の用意した土もいいからだろう。

 時折、電話して、神田川のアドバイスを聞いたりもしたし。

 こんなに熱心になにかを育てたのは、兄と転卵しながら孵《かえ》したひよこ以来だな、と思う。

 たくさんニワトリを飼っている田舎の親戚に有精卵をもらって育てたのだが。

 ぴよぴよ可愛いひよこも、すぐにニワトリになった。

 そして、一日中、クワクワ言っていったニワトリは、ある日、学校から帰ると消えていた。

 親戚のうちに返したと母は言っていたが、親戚のうちに行っても、どれが自分の庭でクワクワ言っていた奴なのか、見分けはつかず。

 それを聞いた幼なじみの斎藤誉《さいとう ほまれ》など、
「その日の晩ご飯、チキンじゃなかった?」
と言って、いひひひひ、と笑っていた。

 転卵、今は機械も簡単に手に入るんだよなー、と思いながら、風呂に入ったあと、ネットの動画をタブレットで眺めながら、階段を上がっていた。

 うずらの転卵の動画だ。
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