パクチーの王様




「そこで待ってろ」
と逸人に言われ、芽以は、ぽかぽかと暖かい窓際の席で待つ。

 逸人が、開店前に、パー、クー、チーを料理して食べさせてくれることになったからだ。

 客の居ない店内はガランとしていて、ただ逸人がなにかを炒めている音だけが響いている。

 しばらくして、ニンニクの効いた美味しそうな海鮮炒めが出てきた。

 香ばしい匂いが店中に充満する。

 すごくいい匂いだ。

 プリプリの海老やイカ、シャキシャキのセロリの隙間から、ちょっぴりパクチーが顔を覗かせている海鮮炒めを眺める。

 パクチーはほんの気持ちほど入っている、と言った感じだった。

 芽以は、一口、パクチーのない部分を食べてみた。

 イカがやわらくて美味しい。

 うん。
 海老もいける。

 前に立って見ていた逸人が、
「……パクチーに行け」
と言ってきた。

 ……そうでしたね。
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