パクチーの王様

 今のところ、パクチーの風味はあまりしません、と思いながら、それらしき炒められたものをつまみ、一口、口に入れる。

 噛んで飲んだ。

 水を飲んだ。

 大好きな海老を食べた。

「食べられました……」

「……お前、今、息してなかったろ」

「いやっ。

 今っ。
 パクチーが上がってきましたっ」

 まるで、マラソンの中継の人のように芽以は叫ぶ。

 正確には、上がってきたのは、パクチーではなく、パクチーの匂いだが。

 芽以にはパクチーが胃から鼻先まで戻ってきた感じがした。

 魔王を打ち倒し、やった! と帰ろうとした瞬間、実は生きていた魔王に後ろから斬りかかられた気分だ。

 おのれっ、パクチー!

 まるで香りの魔王様だっと、そこまで爽やかでなくていいですっ、という香りを放つパクチーの匂いを打ち消すため、慌てて、薄切りにしてあったニンニクを呑み込む。
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