パクチーの王様
「死ぬほど臭いですっ!」

「……新鮮だからな」

 そう言った逸人には、こうなることはわかっていたようだ。

 一生懸命育てて、情が移った、まではいいが。

 新鮮採りたてな分、香りも鮮烈だった。

 だが、パクチーの匂いを消すために、急いで海鮮を口に運んでいた芽以は気づいた。

 はっ、せっかく調理してくださったのに、死ぬほど臭いとか言ってしまったっ!

 いや、パクチー料理としては、褒め言葉に当たるのかっ?

 そう思いながら、逸人を窺うと、彼は微笑み、自分を見下ろしていた。

 ――何故っ?

 せっかく逸人さんが作ってくださった料理を苦い顔で呑み下した私のような無礼者に、何故、そんな優しげな顔をっ。

 申し訳なくなった芽以は、更に、パクチーと触れ合おうとした。

「芽以……」
と逸人は止めようとしたが、もう一口、生パクチーピザを口にする。
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