パクチーの王様



 俺は今、人生において、最高に思い上がっている、と逸人は思っていた。

 その日の昼までの仕事を終えても、芽以はまだ、
「いつまでもいつまでもリアルに鼻先にパクチーの匂いが蘇るんですー」
と言っていた。

「お前、実は好きなんじゃないのか? パクチー……」

「でも、パクチーって、匂い嗅ぐだけで、すごいインパクトがあるから、デトックス効果も匂い嗅ぐだけであったりしないですかね?」

 どっちかって言うと、それ、デトックスじゃなくて、ストレスになってないか?
と思いながら、芽以を見つめると、芽以はちょっと恥ずかしそうに視線をそらす。

 どうしたことだろう。

 気のせいだろうか?

 芽以が俺のことを好きなんじゃないかとか、ちょっと思ってしまうのだが。

 突然、好きになるパクチーのように、芽以が突然、俺のことを好きになったとか?

 いやいや、そんな。
 思い上がりも、はなはなだしい、と逸人は、己を叱責する。
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