パクチーの王様

 ん? とこちらを見た逸人は、
「間違わなければいいんじゃないか?」
と言ってくる。

 えーと……。

 ま、そりゃそうなんですけど。

 困ったな。
 つづきの言葉が思いつかないんだが、この凡人には……。

 だが、逸人は、前を見たまま、
「わからない問題がないよう、日々、努力するだけだ」
と言ってくる。

 そうそう。
 この人、努力を尊《たっと》ぶ人だったな、と思い出す。

 だが、日々、努力したところで、全員が達成できるわけでもないから。
 やはり、もともとの頭もいいんだろうが。

 それでも、こういうことを言う逸人さんが好きだな、と芽以は思っていた。

 自分はやらなくても出来るとか言う人より、私は好きだ。

 でも、そういえば、圭太も実は、すごく努力する人だったな、と思い出す。

 奴は、やってるのが見え見えでも、やってない、とうそぶく奴だったが。

 まあ、それはそれで可愛らしいが、と思い出し、芽以は笑う。

 そして、気づいた。

 圭太のことも、あのクリスマスイブの夜のことも、思い出しても、なにも胸が痛まない自分に。
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