パクチーの王様
そういえば、いつの間にか、このコートにも迷わず手が通せてるし、とイブのためにとっておいたピンクのコートを着た胸に、そっと触れてみる。
あの日と変わらない柔らかい手触りだった。
だけど、日向子さんが言うように、私が最初から逸人さんを好きだったというのなら。
圭太に対する気持ちはやはり、恋ではなかったのだろうから。
胸が痛んでいたのは、ただ、ずっと側に居た親友と、もう会えなくなってしまうかもしれないという寂しさだったのかもしれないが。
やっぱ、男の子の友だちって、結婚しちゃったら、なかなか会えなくなっちゃうもんな。
そういう意味でも、逸人さんと結婚できてよかったな。
ずっと一緒に居られるし。
……いや、まだしてないようだけどさ、と思いながら、逸人を見上げると、逸人が、なんだ? という目で見下ろしてきた。
そのとき、黒に黄色のナンバーの運送業社の車が横を走っていった。
「あ、クロッキー」
と芽以は笑って声を上げる。