パクチーの王様
やっぱり、お父さんに呑まされ過ぎて、酔っているのでしょうか?
とトレンチコートを着たその背中を見つめる。
それとも、これは、頑張って、パクチー育てて食べた自分への神様からのご褒美だとか?
蒔いた方の種は、何故か未だ出ませんが、と思いながらも、いつの間にか立ち止まっていた自分に気づき、芽以は急いで逸人に追いついた。
「待ってくださいーっ」
と言いながら、横に並ぶと、逸人はこちらを振り向き、
「芽以、手袋してないじゃないか」
と言ってくる。
そういえば、忘れてきたな、と思っていると、逸人は追いついた芽以の右手をつかみ、自分のポケットに入れた。
「……あったかいです」
うん、とだけ言って、逸人はそれ以上なにも言わず。
二人はそのまま寒い夜道を歩いて帰った。