パクチーの王様



「じゃ、俺、帰るよ。
 昼からは彬光も来るんだろ」
と言いながら、圭太がエプロンを畳み掛けたとき、窓の向こうにそれは見えた。

 また違う暖かそうなコートを羽織り、早足に歩くショートカットの女。

「あ、日向子さん」
と芽以が言うと、なにっ? と圭太は固まる。

 日向子は準備中の札も無視し、既に、ドアノブに手をかけていた。

 ひいっ、と固まった圭太は隠れようとして周囲を見回している。

 逸人が、
「何処に入る?
 ポリバケツ? 冷凍庫か?」
と訊いていた。

「だから、まだ、生きてるっ」

 凍死させる気かっ、と叫びながら、圭太は二階に逃げた。

 あっ、こらっ、と逸人は階段を駆け上がる圭太を見上げたが、深追いはしなかった。

 日向子が、
「なんで閉まってんのよ~」
と言いながら入ってきたからだ。
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