パクチーの王様

 やがて、圭太が戻ってきて、また、富美の話が始まる。

 意識を遠くに飛ばしていたら、ちょうど、日向子の横、斜め向かいに座る圭太と目が合ってしまった。

 というか、圭太は先ほどから、食事もせずに、ずっとこちらを見ていたようなのだ。

 何故か、すがってくる仔犬のような目で見てくる。

 ひ、日向子さんの視線が痛いので、ぜひとも、やめていただきたいのですが、と芽以は知らぬ顔をしようとした。

 け、圭太……。
 食べて、お願い。

 ラスボスじゃなくて、ずっと一緒に旅してきた仲間に殺られそうだから、と思ったとき、日向子がフォークを置いた。

 かなり大きな音がしたので、富美が話すのをやめ、日向子を見る。

 日向子は、あまり減ってはいない、おのれの皿を見たまま、口を開いた。

「私、貴方と一緒になりさえすれば、幸せになれると思ってた」

 顔は圭太の方を向いてはいないが、圭太に向かって言っているようだった。
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