パクチーの王様
「っていうか、むしろ、別れてくれってことは、付き合ってるつもりだったのか、とちょっとビックリしましたが」

「いや、なに言ってんの、夫婦なんでしょ」
と日向子は言うが、いやいや、まだ婚姻届は出してませんしね、と思う。

 むしろ、あの婚姻届は書き直したい気もしている。

 なんだかわからないが、包丁で脅されるようにして書いたあれじゃなくて、ちゃんと好きだと思った今の気持ちで書きたい気がするからだ。

 そのとき、静が窓の外を通るのが見えた。

 静はチラと中を見て、日向子を見ると、うわっ、という顔をしたが、行きかけて戻ってきた。

 そのまま、中に入ってくる。

「……静さん、待ってたんじゃないですよね?」

 笑顔で静に手を振る日向子に不安を覚え、芽以はそう訊いてみた。
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