パクチーの王様
「圭太……」
と芽以が呼びかけると、圭太はつかつかと中へと入ってきた。

「昨夜から、いろいろとひとりで考えてたんだが」
と言い出す。

 逸人が言うように、そういえば、圭太が立ち止まって物事を考えるとか、あまりなかったな、と思っていると、圭太はまだ洗っていなかったまな板とその上の包丁を見た。

 おもむろに包丁をつかむと、逸人に向けてくる。

 前に出ようとした芽以を逸人が手で制した。

 逸人は怯《ひる》むことなく、まっすぐ圭太を見据えている。

「いろいろ考えたんだが。
 やっぱり、俺は芽以を諦められない。

 芽以を殺すと可哀想だから。

 逸人っ、俺と一緒に死んでくれっ」

 ……普段物事を考えない人が考えると、ロクな考えにたどり着かないようだ。

 そう芽以は悟った。
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