パクチーの王様
「同じ顔の奴に、芽以を目の前で持ってかれるのは嫌だ。

 なにかが違えば、自分がそこに、芽以の横に居られたのかもと、いつまでも思ってしまいそうで」

 いや、だから、あんたが逸人さんと結婚しろって言ったんだーっと芽以が思っていると、

「逸人、俺はお前には、なにも敵わない。
 子どもの頃から、そうじゃないかな~とは思っていたんだが。

 昨日、はっきり、そうとわかったんだっ。
 芽以がお前を選ぶのも当然だ」

 人殺しになるくらいなら、頭に花が咲いたまま、そうじゃないかな~と思ってててくれた方がよかったんだが……。

 っていうか、そのパクチー臭い包丁で殺されたら、誰も成仏できなさそうだ、と思っている芽以の前で、圭太は、なおも言い募《つの》る。

「わかってる……。
 俺は肝心なときに駄目な人間なんだ。

 絶対に、ゲーしてはいけない場面で、パクチーを吐き出したり――。

 あのとき、逸人はパクチーを飲み込んで、俺は吐き出した。
 だから、芽以はお前のものなのかっ」

 いや、それは関係ない……と思っている芽以の前で、圭太はおもむろに、まな板の横にあったパクチーをつかみ、口に放り入れた。

 もしゃもしゃと噛んで飲み干す。
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