パクチーの王様
「俺も今は飲んだぞっ。
 逸人っ。
 芽以を寄越すか、俺と一緒に死んでくれっ」

 逸人は溜息をつき、
「兄弟で心中とか、意味がわからんうえに気色悪いだろうが」
と言い出す。

 そうですね。
 そして、千佳みたいな人が、いろいろと邪推しますよ。

 美形の男兄弟二人で心中すると――。

 そのとき、
「よし、刺せ」
と言って、逸人が圭太の前へと一歩進み出た。

「逸人さんっ」

 逸人はこちらを振り返らないまま、言ってくる。

「芽以、こんなことなら、もうちょっとお前となにかしとくんだった」

 いや、今、なに言ってんですか、と芽以はそんな場合ではないのに、赤くなる。

 圭太は逸人に包丁を向けたまま、動かなかった。
< 517 / 555 >

この作品をシェア

pagetop