パクチーの王様

 近寄り、匂いを嗅いだ逸人は、

「ほう。
 なかなかいいですね。

 強烈な匂いに、ぐっと胃の辺りが引き絞られる感じがします」
と、それは褒め言葉なのか? ということを言っていた。

 逸人は、そのまま神田川と話し出す。

 神田川は床に座り込んでいる圭太に気づいているのだろうに、なにも言わなかった。

 神田川が帰ったあと、逸人が包丁をおのれの片手に打ち付けながら、

「すっきりしたか?」
と圭太を見下ろし、訊いていた。

 いや……今にも、貴方の方が殺《や》りそうなんですけど、と固まる芽以の前で、圭太が座り込んだまま、

「……まあ、ずいぶん」
と言ってくる。

「お前も人がいいから溜め込みすぎるんだろ」

 本当に人がいい人間が人を殺そうとするだろうか、と芽以はちょっと疑問だったのだが。
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